本書は、実際に学校の先生方と連携を行った経験から、このような一冊があるといいなという思いを形にしたものです。学校の先生と言語聴覚士(ST)が連携する際、本書に掲載されている言語・コミュニケーションに関する専門知識を共有しながら意見交換を行うと、子どもへの効果的な支援につながるであろうと考えています。
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本書が出版される前は、学校訪問の際、専門書を何冊も持ち歩いていました。評価結果を担任の先生にフィードバックする際には、その都度該当するページを開いて説明していました。持参した資料は専門書なので、伝えたい内容に至るまでに説明が必要であり、貴重な連携時間をそのために費やさなければなりませんでした。また、予想外の質問をいただいた時は「あの本を持ってくればよかった」と後悔することも多かったのですが、今は幅広い領域の知識がわかりやすく一冊にまとまっている本書があるので、専門知識の説明に時間を要することなく担任の先生との意見交換の時間が増えました。
産休育休代替で岩手大学に勤務した際に松田輝美先生と菊池明子先生と出会い、3名で本書の原本となるリーフレットを作成しました。両先生は、「摂食嚥下障害」「学習障害」に対する支援経験が豊富でしたので、子どもの支援についての立ち話が大変興味深く、「一人で聞いているのはもったいない」「メモしたい」という思いが積もり、ある時「事例を載せたリーフレットを作ろう」と閃きました。そして、出来上がったリーフレットを見た方から「出版してほしい」というありがたいお声かけをいただいましたが、何をどうしたら良いかわからず保留にしていました。その後、中川信子先生にお力添えをいただき、幸いにも出版に至りました。
本書の第1章には、言語・コミュニケーションの発達に関する基礎知識を掲載しました。特別支援学級の先生が言ってくださった一言で、この内容を入れようと決めました。その先生とは複数回の連携を行っていましたが、ある時「先生(池田)から子どもの今のことばの発達の状態を教えてもらい、次にどこを目指せばよいか、どのように目指せばよいかを教えてもらえるのでやるべきことがわかる。しかし、それを達成した後に何をすれば良いかわからない」と本音を話してくださいました。ことば・コミュニケーションの発達のものさしを示すことで、先生方は見通しが持てるようになり、安心して支援を行えるようになるのではないかと考えました。
第2章には支援の考え方を掲載しました。行っている支援が子どもにプラスになっているのかを、自身で仮説検証する視点を持った方が良い方向に進められます。効果的な支援を行う視点の引き出しを増やすために、具体的な例を挙げて解説しています。
3章には事例を掲載しました。アセスメントを踏まえた支援の流れからことばの発達を促すコツをつかむために、「読み書き」「コミュニケーション」「指示に従えない」「授業に集中しない」「話すこと」「発音が不明瞭」「食べる飲む」領域の28事例を挙げています。
4章には支援に役立つ「知的活動を支える姿勢・運動」「知能検査」「摂食機能・口腔運動の発達」「吃音の進展段階」「日常生活音と難聴の程度」「べんりに使える支援グッズ」等のことば・コミュニケーションに関連する14の知識を掲載しています。
なお、本書は言語・コミュニケーションの発達支援の入門書です。もっと詳しく知りたい場合は、専門書へ読み進めて頂きたいと思います。
以上の内容が盛り込まれています。学校場面や学校の先生とのやりとり場面だけではなく、保護者支援にも役立つ一冊です。学校の先生やSTの皆さんに活用していただけましたら幸いです。
2024年4月 子どもの発達支援を考えるSTの会 会員 池田 泰子
松田 輝美
※表紙画像等については出版社さまより利用許諾を得ております。