毎年9月1日は、日本言語聴覚士協会により「言語聴覚の日」とされており、各地でイベントを開催しています。今回はその取組の1つを紹介します。
昨年度まで私は徳島県言語聴覚士会の広報部長を務めさせていただきました。STになってすぐの頃は“言語聴覚士を啓発する”ということを深く考えたことはありませんでした。地域に出ることが少なかった若手の頃は、言語聴覚士という資格が知られていて当然だと思っていましたが、地域で実際で活動するようになると「言語聴覚士の名前は聞いたことある」「あー、手話の人!」など、言語聴覚士の知名度が低いことを目の当たりにしました。
今まで言語聴覚の日に関連して取り組んだことの中で特に印象に残っているのは、小学校や高校の出前授業としてSTの職域や障害についてお話をさせていただいたことです。普段、障害のあるお子さんと関わっている私としては障害のないお子さんにどんな風にお話をしたら良いか、発達障害や支援学級のことをどう理解してもらうかなど、とても悩みました。
小学校5年生のクラスで出前授業をさせていただいたとき「障害があることは可哀想なことか?」というテーマでお子さん方に意見を求めました。大人だったら、きれいごとを言ったり、口をつぐみたくなったりするような質問ですよね。小学生のお子さんたちはとても真剣に考えてくれていました。そして大多数のお子さんは「障害があることは、可哀想だ」と話してくれました。
私がSTになったのは自分が一側性難聴になりコミュニケーションの重要性を痛感したからなのですが、小学生のお子さんたちに「私には聴覚障害があります。でもみんなと同じようにSwitchも持っているし、お金もみんなのお父さんやお母さんと同じくらい貰っているし、自分の行きたい場所に行けるし、やりたいと思ったことはやっているけど、可哀想かな?」と質問しなおすと、みんなは「......」と考え込みました。
私の個人的な考えにはなりますが、障害があることで不便なことや出来ないことはあります。でも、それは本人が「障害のない人と違って上手く体が機能しづらくて不便だな」と感じることであって、他者から“可哀想な人”だとは決められるべきではないとお話しました。
それから言語聴覚士がどんな人たちを対象にして、どんなお仕事をしているのか?障害のある方にはどんな職種の専門職が関わっているのか、みんなもヘルメットをかぶらずに自転車に乗っていて事故にあった拍子に頭を打ったりしたら、言葉が話せなくなったり、覚えておけなくなったり、ご飯が食べられなくなったりするんだよ......などと45分授業でなるべく障害は特別なことではないことの話をしました。
後日、小学校の担任の先生やクラスメイトの子どもたちから感想が送られてきました。先生からは「知的障害があり支援学級を使っている子のお姉ちゃんがこのクラスに居て、今まで弟のことをクラスメイトから言われたときに何も言えず黙っていたのですが、先生の授業をお聞きしてお姉ちゃんの中で何かが吹っ切れたのか堂々とするようになりました。出前授業をお願いして本当に良かったです。」という声をいただきました。また子どもたちの感想の中では「料理人になって、嚥下食を出すお店をつくりたいと思いました」など講師をさせてもらったこちらが元気を貰えるようなメッセージもいただきました。
徳島県ではまだ療育が十分でない状況もあり、言葉の遅れに悩む親御さんがSTに相談できる窓口が少ないため、STの存在がまだまだ遠いものとして感じられることもあります
私たちが地域に出て行って、STってこんなこともできるんだよ!と知ってもらうことは本当に大切なことだと思いますので、これからも地道に啓発を続けていければと考えています。
2023年9月 子どもの発達支援を考えるSTの会 代表委員(中継ぎ担当) 篠原里奈