2020/11/1
会報14号を発行しました。
2022/11/27
2022年度全国研修会(オンライン・オンデマンド)が終了しました。
2022/11/1
会報13号を発行しました。
2022/10/14
2022年度全国研修会(オンライン・オンデマンド)の案内を掲載しました。
2022/6/1
会費ペイ、クレジットカード決済復旧についてを掲載しました。
2022/3/15
リンクのページに追加・リンク先修正をしました。
2021/11/28
2021年度第2回オンライン研修会が終了しました。
2021/10/31
2021年度第1回オンライン研修会が終了しました。
2020/09/30
会報12号を発行しました。
2021/09/21
令和3年 オンライン研修会(全2回)の案内を掲載しました。
2020/04/01
会員同士の情報交換の場をメーリングリストからグループウェアへ変更しました。
2020/09/11
会報11号のご案内
2020/03/06
全国研修会in東京のページを作成しました。
2019/11/24
熊本研修会in宇土が終了しました。
2019/11/11
・熊本研修会in宇土の申込を締め切りました。
2019/09/17
会報10号のご案内
2019/06/01
熊本研修会in宇土の申込を開始しました。
2019/05/21
熊本研修会in宇土のリーフレットを掲載しました。
2019/04/12
熊本研修会in宇土の案内を掲載しました。
2019/03/01
「入会案内」ページ内に個人情報やプライバシーの保護についてを掲載しました。
2019/02/27
「お知らせ」の中に教材紹介のページを作成しました。
2019/02/01
・サイトをリニューアルしました。









2023年12月:コラム



「障害者週間 バリアフリーと人権教育」


 私は肢体不自由特別支援学校の教員です。言語聴覚士の資格を持っているので、専門性を活かしたポジションで学校全体に関わることもあれば、担任として毎日同じ子どもたちと過ごすこともあります。担任をした子どもたちとは、卒業後も長くお付き合いが続いていて、ときどき外出を楽しんでいます。
 担任は本当に楽しいです。毎日一緒にいるので、課題にアプローチする最適なタイミングや内容を選ぶことができます。言葉の課題だから国語で、ではなく、本人の興味関心に寄り添いながら柔軟に、その子に合った活動で成長発達を支援することができるのです。一番大切な目標は、学校卒業後の幸福です。
 Aさんとは小学部時代の5年間を一緒に過ごしました。少人数のクラスだったこともあり、やってみたいと言ったことには、可能な限り挑戦しました。どんぐりでケーキを作ったり、てんとう虫の卵を探しに行ったり、校内宿泊では全校教職員協力のもと、肝試しをしました。楽しかったです。
 視力の問題もあってAさんは、文字の読み書きが極端に苦手でした。ブローカ失語?と思うほど、言いたい言葉がなかなか出てこない様子がありました。今はそれほどではありませんが、あいさつやお礼の言葉にもつまることがあり、低学年の頃は、少し気難しい子という印象を持たれていました。今も昔も、身体を動かすことや絵を描くことが大好きで、特別支援学校卒業後は、作業所に通っています。
 バリアフリーについては、小学部2年生で出会った頃から学習に取り入れていました。たとえば校外学習の際は、行く先のバリアフリー状況をパンフレットやWebサイトで調べます。小さい子にはむずかしいのではと思われるかもしれません。確かにAさんも最初は、ピンと来ないところがありました。けれども日常的に支援を受けることの多い肢体不自由児は、主体性や当事者意識が育ちにくいと言われます。そのため、何事も自分のこととして考えられるようにと心がけていました。
 初めてJ Rを利用するときは、駅に行って切符の買い方から調べました。すると、券売機は高い位置にあり画面が光って見えないし、障害者手帳を使うので窓口で買わなければならないとわかり、「車いす用の券売機があればいいのにねぇ」と残念そうにつぶやいていました。普通に券売機を使いたかったようです。それから「エレベータ小さいよ、Bちゃんの車いす大きいから乗れるかなぁ」と友達を心配してくれました。「大きさは大丈夫かな、でも一人ずつ乗ると時間がかかるから、出発時間を変えた方が良さそうね」と言うと、「そうだね!」と自分の気づきが役に立ったことを、とても喜んでいました。
 学年が進むにつれて、実生活に即した内容を取り入れました。たとえば車いすで電車に乗るとき、駅で支援を頼むことができます(頼まなくてもOK)。依頼を受けた駅では降車駅に連絡し、駅員さんが付き添って、乗降時にスロープを出してくれます。安全第一です。ただし、降車駅で対応する駅員さんが決まるまで待つので、時間がかかります。また、駅によって対応が異なることもしばしばです。

 というわけで5年生の社会見学では、J Rの駅で「7号車に乗せてください」とお願いしました。乗車駅では1号車付近にエレベータがあるけれど、降車駅では7号車付近にエレベータがあるからです。
 スマホの乗換案内アプリは、乗り換え時にどの車両に乗ればよいかを教えてくれます。便利です。しかし車いすの人には、そんな利便性よりも切実な理由があります。ホームの階段脇の通路は、狭くて人の流れが途切れるまで通れません。視線が低いので人とすれちがうときは、歩いている人のかばんが目の前をかすめたりして怖い思いをします。エレベータは高齢者やベビーカーなども使います。つまり、安全にスムーズに移動するために必要な準備なのです。
 ところが駅員さんは聞いてくれませんでした。私が改めて事情を説明し、お願いしたのですが、車いす用スペースのある1号車にしか乗せられません、と突っぱねるのです。たぶんその路線では、そんなことを言う障害者は初めてだったのでしょう。行きは時間もなかったので従いました。でも帰りも同じことが起こったとき、時間も人手も十分にあったので「では自分たちで行きます」と丁寧に頭を下げて、降車駅でエレベータに近い、1号車に向けて移動を始めました。すると慌てて追ってきた駅員さんが、降車駅に連絡を入れなおし、1号車にスロープを出してくれました。みんなでお礼を言いました。
 「結果オーライ」ではありました。でも駅によっては「何号車がご希望ですか?」と聞いてくれます。合理的な理由なく断られるのは理不尽です。子どもたちには、必要な支援は求めて良いのだと伝えたいと思いました。
 一緒にいたボランティアの女性が「うちの子も障害児なんです。ついすみませんって引いちゃうんです。」とおっしゃいました。必要な支援を求めているだけ、でも当事者はこんなとき遠慮しがちです。
 Aさんにはどんなときも状況を丁寧に説明し、「あなたはどうしたい?」と問いかけ、選択肢を示してそのメリットとデメリットを伝え、話し合いながら経験を重ねていきました。卒業後は、電車やバスの利用にも慣れて、障害者スポーツセンターに通い、筋トレやダンス、車いすバスケを楽しんでいます。
 あるとき、外出先からビデオ通話がかかってきました。「こっちで合ってる?」と周りを映して道を聞くので、「そこ左だね」と答えました。またあるときは改札口で待っていると、知らない女性とやってきました。聞けば「エレベータの場所がわからなくなって、教えてくださいって声をかけたんだよ」とのこと。できないことやわからないことがあっても、必要な支援を求めることができれば立派な自立です。
 今年は、私の学校のボランティア養成講座に、講師として来てもらいました。高学年のとき、副籍交流校の先生に頼まれて、副籍校の子どもたちにバリアフリーの話をしたことがあります。そのときのスライドを元に、これまでの経験や今考えていること、自分の作業所での様子や趣味の話を加えて準備しました。原稿を音声にしてほしいと言うので、スライドに読み上げ音声をつけて渡しました。
 当日まで何度も聞いて練習したそうです。そして、仕事の話は使う道具の写真があった方がわかりやすいし話しやすいから、と写真を撮って送ってくれました。いつも使っている描画アプリの紹介用に、動画を撮って送ってくれました。自分が言いたいことを伝えるために、どうしたらよいか考えたようです。
 当日、ものすごく緊張していましたが、大健闘で大好評でした。終了後「言葉が出ないところや飛んじゃったところもあるけど、写真や動画を作ったから伝わったよね」と笑顔で話していました。できないことはあるけど、できることはしたよ、だからまぁいいよねと言う自己肯定、いいなぁと思いました。
 Aさんは、むずかしい話はわからないし、計算も苦手です。でも障害のある自分が、どう扱われているかに気づく力があります。好きなことがたくさんあり、やってみたいこともたくさんあります。完璧ではないけれど、自分に必要な支援がわかるし、自分がやるべきことも知っているようです。
 電器屋さんでスマートウォッチを探したとき、若い店員さんが腰をかがめて、私とAさんを交互に見ながら説明してくれました。うれしそうに私を見上げるAさんと、店員さんの対応にお礼を言いました。こんなとき、そばに立っている私にだけ話す人がほとんどなのです(そんなときはいつも、「ご本人にお願いします」といいます)。でも、それをなんとも思わない、お客さんとして認められていないことに気づけない、そんな障害者もいるかもしれませんね。
 電子マネーの使い方を練習したときは、コンビニのチャージ機に「高くて画面も操作するところも見えないよ、車いすの人は使えないよ」と不満そうでした。障害の無い人なら誰でも使える便利なものに、手が届かないのはおかしいと感じ、「車いすだから仕方ない」とは思わないのです。
 令和6年からは、障害者差別解消法が改正され、障害者への合理的配慮が、一般事業者についても努力義務から義務へと変わります。障害のない人々が、この法律の意図するところ=合理的配慮というものを理解することが不可欠です。そして障害のある人が、自分自身を大切な存在だと思えること、合理的配慮とは何かを知ること、自分に必要な支援を上手に伝える力をつけることが、何より大切だと思います。小さいときからの教育や、卒業後も含めた息の長い支援が必要です。担任から足かけ13年、様々な生活課題に一緒に取り組んだことは、私にとっても貴重な財産です。

 ボランティア養成講座の後、送っていった駅のエレベータが狭くて、出てくるのに少し時間がかかりました。するとAさん、そばでジリジリしながら待っていた女性に笑顔で「お待たせしました」と声をかけました。誇らしくて胸がいっぱいになりました。

2023年12月 子どもの発達支援を考えるSTの会 森岡典子 





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