最初にお断りです。私は医者でも心理士でも薬剤師でもなく、特別支援学校の教員です。医学的なことや薬に関しては書ける立場ではないので、今回あくまで自分の体験等を書きたいと思います。
もし「とんでもない!」という部分がありましたら「お問合せ」等から遠慮なくご指摘いただければと思います。
さて、5月なので5月病についてというテーマをいただいたのですが、ここ数年、あまりこのことばを耳にすることは少なかったのではと思っています。背景には新型コロナの影響も強いと思いますが、5月に限らず、うつ症状に悩まされる方が増えてきたのもあるのではないかと思っています。
実は私も、もう10年ぐらい前になりますが、うつ病を患ったことがあります。その頃は仕事の量が半端なく、週に80時間以上の労働(今では考えられないのですが)。限界が来ると有休をとってまるっと1日寝込む。というような日々を過ごしていたときです。
そのうち、だんだんと朝起きられなくなって、体中の倦怠感、何もやる気が出ない症状が出始め、内科を受診して一通りの検査したのですが、どこも異常なし。神経性が疑われるとのことで、精神科を受診しました。初診の際に、ハッキリと「うつ病」です。との診断。少々驚きでした。確かに身体的なストレスはありましたが、対人関係に問題がなく、仕事が辛いとも思ってなかったので、まさか心の病とは!
お医者から、「うつ病は心の風邪だから、言うとおりの治療をすれば治るよ。時間はかかるけど」と言われたのが救いでした。
幸い、早期発見で症状が軽いうちから抗うつ薬での治療をはじめられたこともあって、2~3か月ほどで、今まで何もやる気がしなかったのがウソのようになくなってきました。雨が上がってスッキリ天気の気分です。(私の場合はかなり回復が早いほうだとお医者も言っていました。)
ここで、世の中で多くの人が誤解しているだろう点。まず、「うつ状態」と「うつ病」とは違うという点。日本医師会企画のチラシ にも「うつ、抑うつというのは病気ではなく、一時的な気分の落ち込みを指す用語」と書いてあります。一時的な気分の落ち込みは、それこそ新年度が始まって気をはっていたのが、ゴールデンウィークで一瞬気が抜けた。ということも要因となり得るわけでこれが5月病です。
うつ病よりは軽い症状が一般的なので、時間とともに改善される場合もあるでしょう。こうなると、昔から今でもまだ言われている、うつ病をサボり病というのは違うと言うこと。まさに、「心の風邪」だなと実感できます。
さて、私の場合、うつ病との診断でした。治療が必要で、抗うつ薬での治療です。
ではその抗うつ薬は身体の中で何をしているのでしょうか?
丁度最近、2023年2月に出たばかりのBLUE BACKS シリーズ「「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか」講談社(林(
木)朗子、加藤忠史 編)の本に出逢いました。
余談ですが、BLUE BACKSシリーズと言えば、難しい科学論文を割と読みやすくしてくれている科学系の新書版シリーズ。書かれている信頼度としてはかなり高いと思います。
早速手に取って読んでみると・・・残念なことに、ほとんど専門用語で内容が分かりませんでした。ノルアドレナリンがどうのとか、シナプスがどうのとか、ことばは聞いたことはあるのですが、関係性が全く不明。
それでも(すごく乱暴ではありますが)、分かる部分のみを抜き出すと、うつ病や統合失調症など、心の病気と言われているものは、基本的に脳の神経機能が異常な状態になっているために起きている病気であり、その機能が正常になれば十分に治る可能性がある。ということだと思います。
うつ病での脳からの神経伝達物質の異常を薬で強制的に正常に戻していくというわけです。
気分的に晴れないとか、自分はダメだと思い込んだり、生きていても仕方がないと思ったり。という思考は、生活習慣とか性格的な部分や環境要因も否定できませんが、大部分は脳の神経機能が正常に働いていないことが原因と考えれば、見方が変わってきませんか?
少なくとも全てが自分のせいではないと思えれば少しは気が楽になるように思えます。周りの人たちの
対応も同じく変わってくるように思います。 この本ではさらに、脳神経の異常な状態として、ASDやADHD、PTSDに付いても触れています。
以前からADHDの行動を抑えるための薬物療法は行われていますが、服薬による多動性の減少効果についても取り上げられています。後何十年後には、今は「障害」と言われているこれらのものが「病気」として治療が可能になる日も来るかも知れません。
良さそうな事ばかり書いてきましたが、最後に2つ、本の中にあったエピソードを紹介します。
まず、うつ病は治療の失敗や再発率が依然と高いこと。これは、完治するまでに長い時間が必要で、途中で治療を諦めてしまうことが多いのが主な原因のようです。また、生活習慣に起因する場合、その原因となっている習慣を改めないと再発する可能性が高まります。じっくり時間をかけての治療が大切というわけです。
もう1つは、あるADHDのお子さんたちのことば。少し引用します。
「薬を飲んでから、たしかに席を立って怒られることは減ったけれど、座っているからといって先生のお話に興味が湧くというわけではない」とか「周囲の人の動きに気付けるようになったけれど、相手が何を考えているかを考えてしまって、思っていることを言い出しにくくなった」など。
特定の機能障害改善だけではなく、本人の主観的な体験がどう変わるかという視点も持ちながら、総合的な意味でのリスク、ベネフィットを考えていく必要があることを示しています。
この子たちはまだ自分の事を表現できていますが、重度のお子さんの場合等そのことを伝えられなければQOLの向上の意味からも本当によいのか?
という問いを忘れてはいけないと感じました。そのために療育や教育は、医療と連携しながら進めていくことが大事であることを改めて実感した次第です。
一昔前と異なり、スピード感など多くのことがストレスとなりうる今の世の中、どの子どもたちも心穏やかに生き生きと過ごせる日がくることを願ってやみません。
2023年5月 子どもの発達支援を考えるSTの会 運営委員会