1986年出版の『ことばをはぐくむ』が38年の時をへて、装い新たにお目見えしました。あまりに古びた部分や、今の時代にそぐわない用語をなくし、また、旧版で「お母さんが」「お母さんが」を連発していたのを、新装版では極力「親」「親ごさん」という言い方に変えました。お母さんだけが子育てに孤軍奮闘する時代ではなくなって来たという期待も込めてです。
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そのような小修正は加えましたが、おおすじの内容は旧版と変わっていません。
今もですが、当時も子どもの発達に伴走するST(言語聴覚士)は足りていませんでした。ことばが遅かったり、発達が遅れていたりすると、保護者も先生たちも“ことば”が言えるようにとそれだけに焦点をあてて、いやがる子どもにくりかえし教えたり、ムリに言わせようとしていました。
“ことば”は、毎日の生活の中でのお手伝いや楽しい遊びの経験の中から自然に出て来ますし、ムリに教えなくてもその子なりのやり方でちゃんと進歩していくものなのに。
私は、あせる親ごさんや園の先生たちに「ゆっくりの歩みに付き合って、その子なりの成長を見届けましょう」と伝えたかった。でも、単に「大丈夫ですよ、ありのままで」というだけではなく、ことばの育ちの道すじと、ことばがよりよく育つために必要な接し方も同時にお伝えするのが言語聴覚士としてやるべき使命だと思い、それを公益社団法人発達協会発行の「発達教育」誌上の連載で書きました。
当時は、今40代の息子たちがまだ小学生と保育園児。2人を寝かしつけてからダイニングキッチンのテーブルで原稿を書いたものです。夜のうちに書き終わらず、翌日の昼間までかかると、息子たちに「お母さんはここにいるけど、いないと思ってね!」と言いつけて原稿に没頭しました。
大きくなってから息子たちは「オカアは『ここにいるけどいないと思ってね』とか言ったけど、あれ、絶対ムリ難題だったよな」と言っていました。そんな親でも子は何とか育ちました。
その連載が一冊の本になり、旧版『ことばをはぐくむ』が世に出たのです。
ある方が「本は、作者の力が50%、読者の力が50%。深く読んでくれる読者と幸運にも会えると、その本は著者の力が及ばなかった120%にも150%にもなれるんですよ」と言っておられました。
旧版の読者から「バイブルにしています」「ことばの本としてもですが、自分の子育てへの励ましをもらっています」との声を多くいただき、この本は幸福な旅をしているのだなと思ってきました。
今回、新装版を送り出すにあたっての願いも思いも旧版の時と全く変わりません。
私からのメッセージが必要な方のもとに届き、少しだけラクに子育てができますように。
新装版も幸福な旅をしてくれますように。
2024年4月 子どもの発達支援を考えるSTの会 代表 中川信子
※表紙画像等については出版社さまより利用許諾を得ております。